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新陳代謝

第105回 西村翔 太郎(2015.10.20)

貴族のお屋敷が並ぶ通り。取っ付きにくい印象ですが、よくみると庶民的なお店もちらほら貴族のお屋敷が並ぶ通り。取っ付きにくい印象ですが、よくみると庶民的なお店もちらほら

こんにちは。
私事ですがこの度、工房兼自宅を引っ越しました。以前はストラディバリが最初の奥さんと住んだ家の斜め向かいのアパルトメント(日本で言うアパートとは多少趣が違います)に住んでいました。この度引越した先は、大聖堂の裏側でクレモナの旧市街地がちょうど終わる手前のアパルトメントです。以前住んでいた地域はとても庶民的な地域で、活気に溢れ、商店がひしめき合っている通りでしたが、この度引っ越した家の地域は、貴族のお屋敷が並ぶ地域で、とても厳粛な雰囲気です。
さて、引っ越したこのアパルトメントは今年の5月に購入したものですが、引っ越しが秋にまでずれ込んだのは、家を大改装したからです。

我が家のアパルトメント。我が家のアパルトメント。

築100年程になるこのアパルトメントは、クレモナでは比較的新しいのですが、(以前の家は築300年以上)既に歴代の住み手が部分ごとに改装をしていて、時代ごとのまだら模様。レトロと言えば響きは良いですが、統一感がなくあまり好みにも合いませんでした。そこで一大決心をして、内装を全てやり直す事にしたのです。
イタリアでは、各工事ごとにそれぞれの業者に頼む事もよくある事ですが、今回は一つの工務店に一括でやってもらうという事で、とても楽観していたのですが、それが大きな間違いでした。。。
毎日のように起こるトラブルの連続、一人の作業員が勝手にサボって全ての作業が止まる、いくら伝えても担当者の気分で違うように出来上がる、終いには作業員が自分で引いた配管に、ドリルで穴を開けるというお粗末さ。それでも穴を塞ぐ前に白ワインを一杯ひっかけに。。。まさにイタリア社会の縮図と対峙する日々で、もう全てを手放して日本に帰ろうかと何度も考える程でした。

屋根裏を改装して作った工房。天窓から心地よい光が入ります。屋根裏を改装して作った工房。天窓から心地よい光が入ります。

しかしこの改装工事に立ち会って、気付いた事もありました。イタリアの家は、今も昔もレンガにセメントに漆喰と、同じ素材で作られ続け、各部の交換変更が容易で、建物自体に変化に耐えうる柔軟な”揺らぎ”があり、新陳代謝があるという事でした。
新しい壁を作るのも壊すのもレンガとセメントで容易に、配管の交換も床を滅茶苦茶に壊しても直ぐに元通り。

日本の建築界も、新しい素材とテクノロジーで新陳代謝・メタボリズムを指向した時代がありましたが、上手くいきませんでした。
イタリア古来のこのファジーでなんでも受け入れる”揺らぎ”が、この国の古い町並みを残せた要因の一つだと感じました。
バイオリンにも同じ事が言えるように思います。昔からこのような暮らしを営んでいた中で生まれた楽器ですから、当然かもしれませんね。今回の引っ越しで、イタリア人の時の感覚を見つけたような気がしました。

 

次回は11月5日更新予定です。