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楽器を作る理由

第61回 鈴木 徹(2013.12.05)

クレモナへ行こう
と、思ったのは26歳くらいの時、バイクに乗ってその日の営業活動からの帰宅途中、
正面にきれいなまんまるの夕日を見ていたときでした。
突然頭の中にカーンという音–それは以前旅行で行ったカンボジアのアンコールワット横にあるプノンバケンの丘、というところで聞いた『鐘の音』という名のセミの鳴き声でした–が響いて、その時に
「あ、俺はこの音が出るコントラバスを作ればいいんだ。」
と思ったのです。

その当時(2001-2002年)僕は世界のいろんなところで起こっている事柄、それに対して動いている人たちの様子などをニュースで見聞きしていて「どうしたら良い世界というのを作れるのだろうか」と考えていました。
そしてそのために自分はいったい何ができるのだろうか、と。
そんな事を毎日毎日考えて出てきた答えが「楽器を作る」という事だったのです。
それは自分が何か、この世界に対して働きかけられる手段として。もちろん楽器を作るという事ですぐに世界を変えられるというのではなく、僕の想いとしては、僕の作った楽器の音を聞いた人がすぐにではなくとも、その音を聞いた事によって何かを感じ、考えるきっかけになればいいな、という事です。

刻一刻と、様々に変わりゆく世界の中で、また大きな歴史の流れのうねりの中にあっても、常に人間性を失わず少しでも良い世界を作るのに役立つような仕事ができれば、と思っています。

それには、今の僕にとって楽器を作るという事が一番合ってると思うのです。

次回は12月20日更新予定です。