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楽器作りと建築

第18回 岸野 大(2011.10.20)

先日、京都を旅行する機会がありました。
この旅の一番の目玉は蹴上にあるウエスティン都ホテルの和風別館、佳水園への宿泊でした。

佳水園は、東京赤坂の迎賓館改修の監修、関西では先日取り壊されてしまいましたが、そごう百貨店大阪本店の設計などを手掛けた日本近代建築の巨匠、村野藤吾氏の設計で、近代数寄屋建築の代表作とされています。

一階はコンクリート、二階は木造、傾斜の緩い銅板葺きの屋根は薄く軽やか な印象を与える一階はコンクリート、二階は木造、傾斜の緩い銅板葺きの屋根は薄く軽やか な印象を与える

…はい、偉そうに書きました。
ボロが出ないうちに白状しますが、僕は建築に関してまったくのシロウトです。
恥ずかしながら、建築界では相当有名な方のようですが村野氏の事もここに泊るまで知りませんでした。
実は連れが建築の仕事をしていて、宿に着く前にさんざん話を聞かされていたので、何だか良く分からないけどすごい建物に泊れるようだ…程度の気持ちでした。
そんな僕ですから、佳水園に着いてテンションの上がる連れに「どう?!」と聞かれても、「すっきりしていて綺麗な建物だけど何となく優しい感じもするかな…」などと応えるのが精いっぱいで内心は、ちょっと変わってるけど普通の和風の建物では?これがそんなにすごいの?などと有難味の無いことを考えておりました。

村野氏が得意としていた階段のデザイン村野氏が得意としていた階段のデザイン

しかし、女将が用意してくださった村野氏と佳水園についての資料を読むうちに、この「すっきりしていて綺麗だけどどこか優しい」という印象がとても大事だということが分かりました。
それこそがこの建物で村野氏が目指していたことで、その実現のために建物の全体のデザインから素材、照明器具や家具の意匠など細部まで様々なこだわりが込められていました。
無駄な装飾を省く変わりに屋根の傾斜や間取り、素材の組み合わせなどを工夫し、きつい印象を与えないよう、優しい曲線や繊細で綺麗な面取りを細部に凝らす。
気がつけばこの建物のいたる所に村野氏の心配り、こだわりが感じられるようになり、すっかり村野建築のにわかファンが出来上がっていました。

間取り、天井、床の間などのデザインも部屋に応じて異なる間取り、天井、床の間などのデザインも部屋に応じて異なる

住むための道具として様々な制約の下で作りながらも、作る人間のこだわりや人柄が強く込められるという点において、建築と楽器作りはどこか似ている所があると思います。

毎年、関西弦楽器製作者協会の展示会に来場いただいたお客さんから、「弾くのは好きなんだけど、詳しい楽器の知識は全然ないので、これだけ楽器があるとどこがどう違うか分からないです」という意見を頂戴します。
そんな時は分からないからと恥ずかしがらずに、せっかくの機会ですから、近くにいる職人をつかまえて、どんな所に気を配って作っていますか?何かこだわりがありますか?と聞いてみてはいかがでしょう?
きっとどの職人も色んなことを考えて、色んな工夫を凝らして楽器を作っているはずです。
作った本人の口から聞けるのですから、新しい楽器の見方、今まで気付かなかった魅力に気付けるかもしれませんよ!

次回は11月5日更新予定です。