1. ホーム
  2.  > 連載コラム
  3.  > 第280回 藤井勉 (2023.11.05)

物の値段

第280回 藤井勉 (2023.11.05)

 物の値段はどうしてきまるのか?と考えることがあった。
それは、以前から気になっていたが覗かなかったクリーニング店を利用したのがきっかけだった。

 そこは木造二階建てで、一階は店舗、二階は住居と思われる。看板はいつの頃からか殆ど読めない状態で辛うじて店名と高級クリーニングとある。私は、高級な衣類は持っていないので、頼んで良いのか判断が付かず気にはしながらも、通り過ぎる日々が続いた。通りながらも店の表はガラス窓が多くを占めていて、仕上がった服が多く吊られているのが見える。おじさんのアイロン掛けも見える。結構利用されているようだ。

 字の消えかかっている看板が表すように店構えは高級とは程遠い。敷居を下げているのだと思い利用する決心をした。

 

 私の中では良さそうなシャツと上着を出すことにした。お昼の時間帯だったので店には誰もいず奥に声を掛けると60代ぐらいの優しそうなおじさんが現れた。アイロン掛けのおじさんだった。どうやら店主らしい。シャツと上着を丁寧にチェックして、ノリを付けるか付けないのか、付けるなら薄いか濃いめか、たたみか吊るしかと希望を聞かれた。

いつもの取次店なら聞かれたことが無かったので、ノリの具合は店主に相談しながら薄めにしてもらった。クリーニングは前払いなので請求されたが、高級と言っても取次店の1.5倍ぐらいだった。思ったより安かった。もし取次店なら他の店はもっと安かったのにとか思ったであろうが、この店では安く感じた。それで値段とは何なのか気になった。

 

 以前取次店へ小さな汚れがあるシャツを出した。
ちゃんと汚れの位置を伝えて頼んだのだが、汚れが残ったまま仕上がって来たので再度お願いした。しかし、落ちませんでしたと注釈を付けて戻ってきた。仕方が無いので家で水を1滴落としてティッシュで押さえると汚れは薄くなった。もう一度すると殆ど目立たなくなった。

ドライクリーニングは水溶性の汚れは落ちないと聞いたことがあったが、再度頼んでも同じ作業をしただけでおしまいとは作業をしている人はどんなつもりなのだろう?。
これでは安くても手間が掛かってしまう。こう云う事が無ければ取次店でも充分な仕上がりなのだが、細かい注文は個人の専門店でないと意思が伝わらない。作業をする人に直接言えるので間違いが無い。
その安心感が、値段が少々高くても予想を大きく超えなければ、利用出来るのだと思う。

 

 豆腐でもスーパーなら安い物を探すが、豆腐屋なら値段を他店と比べず購入できる。
割烹でも値段は高いがたまになら利用してみたい。いずれもそこの店主が他店を気にしながらも値段を決める。その値段で店が続いていれば、この職人だからこの値段で任せられる、購入できると云う事なのだと思う。