弓製作ワークショップについて〜Oberlin
この度、2回目のコラム担当です。
今回はVSA(Violin makers Society of America)主催のワークショップについてお話したいと思います。
ワークショップはオハイオ州Oberlinという街で毎年6月に行われ、Oberlin Collegeの施設を使用し、時期をずらしていくつかのワークショップが行われています。弓製作と楽器製作のワークショップは通常同時に行われ、製作家同士の交流も行われます。
夏季の間は大学もお休みの為、同時期に大学主催の古楽器のワークショップ等も行われています。
弓製作ワークショップは2015年に第20回を迎えました。
参加人数も年々増え、毎年30人前後がアメリカ国内のみならずヨーロッパ、アジアから集まります。楽器製作ワークショップはさらに大人数の為、ベンチの場所取りも大変なようです。因みに弓製作はそれぞれのベンチが指定される為、ベンチの取り合いにはなりません。どちらのワークショップも大荷物になる為、数日かけて車でやって来る参加者もいます。
こういう点で日本とスケールの違いを感じたりします。
(私もボストン在住時に約9時間のドライブで参加しましたが、座っているだけでもなかなか疲れるものでした。)
このワークショップは経験者を対象としたものなので、教える立場の人はいません。
期間中は各自がそれぞれの弓を製作しますが、意見交換は頻繁に行われています。
時間を設けて製作のデモンストレーションをすることもあります。
定められた作業時間はありませんので、ワークショップの2週間は好きなだけ作業に集中することができます。とは言っても楽しむことが好きな人達ですので夕方からは作業をしている人がいる一方、楽器を弾いたりお酒を飲んだりおしゃべりしたりの時間になることが多々あります。
個人の作業としては個々にプロジェクトを持参します。ワークショップ期間中に1本の弓を仕上げる人もいれば複数のフロッグをまとめて製作したり様々です。
ワークショップ内
多くの参加者が早朝から深夜まで過ごします。
ベンチは3人一組で配置されます。
参加者同士、お互いの作業を見学しあったり、意見交換も頻繁に行われます。
参加者が製作しデモンストレーションした道具
参加者は大学の学生寮に宿泊します。
小さい街ですので街中に大学施設があり、弓製作のワークショップはそのうちの一棟に毎年滞在します。
毎日の食事は朝、週末は各自でとりますが、平日のお昼、夕食は専属のコックさんに来てもらい準備をしてもらいます。この食事代ですが、ワークショップ期間中に全員で作業を分担し1本の弓を仕上げ、その収益を食事代としています。毎年違ったモデルを製作しますが、通常はワークショップ前に買い手が決まっているような人気です。
分担作業はスティックの粗削り、キャンバー入れ、ティップ付け、フロッグ削り、シルバーロウ付けetc…参加人数で分担されます。
そして完成するとスティックのラッピング下部分に各自のスタンプを押し、フロッグ上には‘Orbelin 2017’と年が入ったスタンプが押されます。ラッピングを外さない限り、製作者の名前はわかりませんが、皆で1本の弓を作り上げ、使ってもらうというものはなかなか面白いアイディアだと思います。
その他に‛Beer Bow’という弓を同じように分担作業で製作します。ただ、この弓はあまり時間を掛けずにワークショップの最後に製作します。
宿泊する学生寮
ほぼ毎年、弓製作者はこの建物に宿泊します。
寮からワークショップまでは徒歩約5分。
3階建ての建物に食堂と厨房、テラスがあり食事はほとんどテラスでとります。
期間中、楽器製作ワークショップとは自由に行き来できるので、久しぶりに会う知合いの作業を覗きに行ったり、ということができます。アメリカ国内からの参加者もこのワークショップで1年ぶりに会う、という人は沢山います。2週間の期間中、1回は弓製作がホスト、もう1回は楽器製作がホスト、と言うように2回の交流パーティーが行われます。それぞれが食事を用意し、深夜まで楽器を弾きお酒を飲みおしゃべりをして楽しみます。そんな中、食事が終わるとワークショップに戻り作業を再開…という人も。
この他に両ワークショップの女性だけでランチをとりに行ったりもしています。
弓製作者がホストのパーティー
総勢80人前後の食事を用意します。
様々なバックグラウンドの人がいて、なかなかのご馳走に仕上がります。
2週間の間でどれだけ作業が進むかは人それぞれですが、私の様にまわりに弓製作家があまりいない環境にいた者にとっては自分の作業を進めるより、他の製作家の話を聞いたり、実際に作業を見る時間はとても貴重な経験でした。様々な道具があり、方法がありアイディア
があり、自分にあったそれらのものを見つけ探求することは腕を上げる上でとても大切で常に意識して吸収していかなくてはいけないことだと学びました。
ワークショップの参加者は年代も様々で色々なバックグラウンドを持った人がいます。
(多くの人が弓製作を始める前に他の職業に就いていました。)そんな人達の話を聞いているととても刺激を受け、製作意欲をかきたてられます。
このワークショップでしか会えない人は沢山いますが、皆同じ志を持った人たちですので、離れていても仲間がいる、と思える出会いは私にとって大切なものです。