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カルテット製作に挑む

第118回 やち 陽子(2016.05.01)

カルテットは私が弦楽器を製作するようになった時からキャリアの中で一度は挑戦したいと思っていた作品群です。幸運にも2年の歳月をかけじっくり取り組む事が出来ました。

製作にあたり歴史を紐解くと1684年に、ある貴族がメディチ家に寄贈するためクレモナスタイルを確立したアントニオ・ストラディバリに製作を依頼した「メディチ」というクインテットのセットがありました。当時はカルテット形式ではなくクインテット形式でヴァイオリン(ボディーサイズ354mmサイズ)、大ヴァイオリン(362mm)、ヴィオラ(約410mm)、テナーヴィオラ(約470mm)そしてチェロのセットだったそうです。
ここで特筆すべき事は、ストラディバリは同じ1本の木から作品群を生み出したことです。それは偉大なマエストロが同じ材料を使うことにより音に統一感があると考えた最初の人だったのです。

私もそれに習い、表板と裏板を全て揃いで集めようとしましたが、裏板の模様合わせでつまずきました。裏板の杢は細かいものが多く、幅の広い杢は10本に1本あるかないかでイタリア中を駆け回り楽器のサイズは変わりますが、中に入る杢の数をほぼ揃えることが出来やっと「これは!」という材料に出会い製作を開始することができました。
しかし幅広の杢は横板にすると杢の部分が鋼鉄のようで曲げるのに悪戦苦闘でした。一本の木から製作するということはそれだけでも模様・寸法・木の硬さあらゆる面で困難が多々ありました。この一本の木から生まれた兄弟たちが、演奏者によって演奏され自らのルーツを悟り共鳴し合う事を祈るのみです。

ちなみに、クレモナのヴァイオリン製作の祖アンドレア・アマティはフランス王シャルル9世(母はフィレンツェ出身のカトリーヌ・ド・メディチ)の紋章入りの楽器38台をセットで作っています。
さて私の次なる夢は弦楽オーケストラのセットを作る事かな!?
乞うご期待

次回は5月20日更新予定です。