展示会に寄せて
我工房では修理や調整で見えたプロの演奏家に作り立ての自作バイオリンを試奏して貰い、音・ニスの質感・作りを批評して貰う機会が度々ある。17、8世紀のクレモナでも名人ストラディバリやガルネリは同時のプロの奏者や教会での演奏会で度々批評して貰った記録は今でも残っている。私共の職業は相手があっての仕事、一人よがりは通らない。
相対的にプロの奏者の眼力と経験が肥えている。オケの仲間や来日するソリストの名器を直接見る機会にも恵まれている。云える事はプロと素人の違いはバイオリンを見る視点とポイントに於いて可成りの差がある。素人好みとはニスや音の内面の充実さよりも表面的なものに左右され易い。その為少々音質がシャーシャーしても耳元で音量が感じられれば、また少々やかましく感じられても音量があるものとして勘違いする場合もある。
私の工房に調整に見えたお客さんで100年前に作られた楽器でもシャーシャーして表面なりする楽器を私が魂柱・駒を整えたり調整してやっとシャーシャーが止まった事例もある。素人にとって留意すべきは選択する時点が正念場である。買って10年弾き込んだり、なじんだり.経年変化すればシャーシャーが止まるとは物理的法則にも反する。
1 プロが選ぶニスについて
プロは概して高価なオールドの楽器を持っている事もあって度々楽器を買い替える人は少ない。又ニスを判断する目も肥えている。日頃からクラッシックを演奏する機会が多い事もあってクラシックの楽想と調和しやすい色合いや渋い重厚感のある質感を求める。結い色が単色でなく、黄色・オレンジ・ピンク・赤茶と重層した色の変化と光の屈折に敏感な透明性の高いニスを好む。私はこれを夕焼け空や秋の紅葉の色を範にしたルネッサンス色と解釈する。
2 プロが選ぶ音質と音響効果
人によって音の好みは千差万別とは云え人類の芸術には普遍性なる共感出来る価値観がある。本当に真なるものは時間と空間を超えて万人に共有出来る要素を具備している。プロはそう云った普遍性に近い音を好む。先ず音質はやわらかく、きめ細かくて、丸く、充実して深鳴りして良く音抜けする。そしてD、Gは深く暖かく、E,Aはさえざえとして澄んで、甘く、きらきら輝く音、そして四弦のハイポジションが楽に抜け、レスポンス(音の立ち上がり)が敏感でパワーと音量のあるバイオリンを好む。
今年の展示会に御来場の際は以上の観点を参考にして私の作品を御評価くだされば幸いです。
次回は3月5日更新予定です。