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あなたの楽器のニスを溶かす犯人は…?!

第292回 鈴木 公志 (2024.05.05)
楽器作りを目指して学校に入ってから早いもので数十年、自分の店をだしてからも早10年。
店を持ってから色々なお客さんの楽器の修理も行ってきました。
 
そんな中、どうにも不思議な現象を度々見る事となりました。
 
れはニスの上に灰褐色の層が重なっていて、その汚れを水で落とすと…なんとニスまでベロリと落ちてしまうのです!
 
 
バイオリンのニスは溶かす溶剤によって「アルコールニス」と「オイルニス」の2種類にわかれます
厳密にはオイルニスのオイルは溶剤ではないのですが…ここでは細かい話は割愛します)。
それぞれ水や汚れを弾いて、本体の木の部分を守る働きをします。
なのでもちろん水をつけても溶ける事はありません。
なのに灰褐色の層の下のニスは水と共に流れていってしまったのです…
 
実はニスの中には「水溶性ニス」という物も存在するのですが、真っ当な楽器には使われていません。
そして僕が見た灰褐色の層と共に溶けていったニスも一般的なニスでした。
その証拠に、同じ楽器のニスの他の部分を水で擦っても全く落ちませんでした。
 
 
 
そうなると原因はどう見ても謎の灰褐色の堆積物。
それをよーく観察してみると…
 
 
観察結果から犯人はズバリ、基礎化粧品、おそらくファンデーションかボディクリームです。
 
  考察1:  灰色の堆積物は圧倒的に女性奏者の楽器に多い。
  考察2:  堆積物の残ったところは、手の触れる部分が多い
  考察3:  灰色の堆積物を除去した後のニス(残っていた場合)に、ラメが入り込んでいる。
  考察4:  昔(どの位を指すのかは曖昧ですが…)はあまり同じ例を見なかった(?)
 
ファンデーション・ボディクリームを構成するものが何なのかはよく分かりません。
しかし近年の基礎化粧品の品質は「落ちにく」かったり、「UVカット」だったり「保湿力アップ」だったりと高性能なのでしょう。
そうなると強力な分、ニスの上に残るとどんどんニスに影響を与えているのではないでしょうか?
個人的には、ニスとニスの上に残った化粧品の成分が溶け合って「水溶性」に変質しているのだと結論付けています。
 
 
最後にこの事を良く示す写真を載せたいと思います。
 
ある女性チェリストの楽器ですが、灰褐色の層の写真は撮り忘れてしまいましたが、木の地肌が出ているところ全てに灰褐色層がありました。
チェロを弾く方には一目瞭然なのですが、チェロの持ち運びの時に触れる場所、演奏時に左手が当たる場所がきれいに落ちているのです。
 
とにかく楽器のニスにとって化粧品は百害あって一利無しです。

特に近年の優秀な化粧品は優秀な分、より厄介なのです。

少々面倒でも、演奏する際には、手の部分だけでも化粧品を洗い落とすと
楽器のニスは健康でいられるでしょう。
皆さんの楽器の健康の為にも、出来るだけこの事を広く多くの方に知ってもらいたいと願っています。