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ヴァイオリンにはハートがあります

第223回 久我 一夫(2021.5.5)

前回の投稿から何年も経ちました。
ストラディヴァリとグアルネリを追求し2つのモデルを作り続けてきましたが、ここ数年、特にそうした楽器達が何かを語ってくれているような気がします。

 

《演奏する方達が成果を残されています》

今までに私の楽器を使い国際音楽コンクールなどに挑戦された方が4名いらっしゃいます。
少ないかも知れませんが、3人が入賞されています。もうお一人はあとわずか0.5点不足で入賞を・・・
また、2019年ストラドモデルで高校生の方が全日本学生音楽コンクール東京大会本選1位、全国大会入賞。
別なプロの方はグアルネリモデルで数々の国際コンクール、国内コンクールに入賞されています。モダンの楽器をメイン楽器として使われていたそうですが、グアルネリモデルをメイン楽器に替えコンクールに挑まれました。
今年の1月には、他のグアルネリモデルをお使いの大学生の方が国内の国際音楽コンクールに入賞されました。
新しい楽器で挑戦してくださる演奏者の方の努力に多大な感謝です!楽器で足を引っ張らない様にと神経がすり切れそうになる時もしばしばあります。

 

《著名な演奏家の方達から温かいお言葉を頂く》

それらを使う学生さん達が、セミナーやレッスンで、海外の先生から 「楽器を見せて弾かせて」と興味を惹かれ古い楽器ではなく新しい楽器である事が分かり「製作者に宜しく!」とご伝言を頂きました。音を評価くださる内容のお話しを伺うことが増えています。一昨年、元東京クアルテット第1ヴァイオリンのマーティン・ビーヴァーさんでした。
昨年は、別な方の演奏を聴き「君の楽器はどこの?」 」「凄く良い!・・・特に・・・」などおっしゃられたとききました。音を聴き、反応してくださる事に感激し、作って良かったと心より思います。それはオレグ・クリサさんでした。ストラディヴァリなど弾いていた演奏家の方達には何か共通したフェロモンの様な何か?伝わる物があるのだろうか?そうだと大変嬉しいのですが、自分が実際の名器からそのフェロモンを感じ取って音を作っているつもりではありますが・・・。それが目標で作っていますので、少しは本物の様な音の表現力が備わってきたのでしたら嬉しい事で、素晴らしいのですが・・・はたして どうでしょうか????

 

《音の響き・・・不思議な経験!》

全日本学生音楽コンクールの予選を聴き、不思議な経験をしました。私の楽器=ストラドモデルの音だけ他の方達のとだいぶ違う響きでした。自分が聴いていて、他の方達の楽器の音が素晴らしく良く響き綺麗な音色でした。私のは大分違い、違和感を感じる程、温かく、柔らかく、全体を包む様に音が広がり・・・聞き慣れたヴァイオリンのシャープな響きと違う!アレ!大丈夫だろうか???と大変心配になりました。大方の楽器の音は、弾いている人の方向から聞こえましたが、私の楽器のみ会場全体に音が回りどこから音が飛んでくるのか分らない温かい響きでした。E線に芯があった事でしっかり主張は感じました。驚いたのは、天から音の粉が金粉の様にキラキラ降ってきて感動から涙が滲みそうになりこらえました。残念ながらその後他の会場では経験出来ませんでしたが!ホールはオペラシティリサイタルホールで、無事予選を通過されました。評価ではスケールが大きな演奏だったそうです。
本選では、金の粉は降らず、まったく異なる響きで、繊細な表現でしみじみ聴かせる音楽で、東京大会本選1位でした。ホールはサントリーホール・ブルーローズでした。 ホールでまったく違う響きに驚きました。また、私のグアルネリをお使いの著名な先生が、コンサートで演奏された後、お客様から音がどこからくるのか?分らないような響きだったとの感想(良い意味で)を聞きました。直進性の音が良いと思っていましたがその限りでもない様です。
音の広がりの経験は・・・そういえば思い出される事がありました。同様な経験を昔・・・・ルジェーロ・リッチさんを浜離宮朝日ホールで聴いた時、同じように会場全体に音が広がり感動しました、今にも倒れそうにヨタヨタとステージ中央に進み(リッチさんすみません!)弾き出すと 凄い迫力で音が渦巻くように広がりました!
またウート・ウーギさんをカザルスホールで聴いた時もグアルネリ・デル・ジェズ1744 Cariploは会場を包む様に広がりました。2丁グアルネリの響きは鮮明に記憶しています。これらは、楽器の作りと会場の音響の組み合わせで起きるのだろう?と思っています。コンクールに入賞したストラドモデルとグアルネリモデル2丁は偶然か?どちらも2016年の関西弦楽器製作者協会展示会に出展した作品です。ストラドモデル1715は試奏もされました。

 

《楽器作りは いかに演奏者の表現力を弾き出せる楽器が作れるか???》

演奏者のコンクールですが、私自身には楽器で後押しすべく私のコンクールでもあります。ショパンコンクールのピアノメーカーの調整をする方の気持ちが良く分ります。単に良い音というより演奏者が、いかに思った様な表現が出せる性能が大切かを強く感じています。大きな音で、美しい音色が出る楽器は あとは弾く人の努力と思っていましたが、楽器のハート=深い表現力を持つ 持たせる事が 製作者に求められる事と感じています。名器のような音響的な性能が得られれば、演奏家の為に、また今後の音楽文化の発展に少しは貢献できるかも知れません。
それが目標で作っています。更に高いレベルの表現力を持つ楽器をめざし頑張らねばと思います。

今年8月に73才になりますが 60~70才はハナ垂れ小僧です これからですね!そして一生勉強です。