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楽器が作れなかった期間

第180回 山根 洋美 (2019.6.5)

皆様こんにちは。3回目のコラムになります。宜しくお願いします。
何を書こうか迷いましたが、折角の機会なので、ここ数年考えたことについて書かせて頂きます。
私事ですが、数年前に関節リウマチと診断され、その前後しばらく楽器製作ができない時期がありました。(現在は復調して製作しております。)
過ぎてから振り返ると2年ほどの期間でしたが、その当時は日常生活もままならず、手指も曲がらなくなり、この先、楽器製作を再開することができるのか不安に思っていました。
病気になる前までは、楽器が作れなくなる日、と言うのは、いずれは来るにしても、まだ数十年は猶予があると、何の根拠もなく信じていました。
しかしある時突然、それが目の前に立ちふさがると、本当にどうしたらいいのかわからなくなりました。生活スケジュールの大半を占めていた作業ができなくなると、とても苦しいです。
まだ、もっと楽器を作りたい、製作をやめたくない、今までなぜもっと製作に多くの時間を使わなかったのか…延々と考えていると、そのストレスと、作業ができない焦りで、また病気も悪化すると言う状況でした。
薬をいろいろ変えてもらったりして調子を見る日々の後、ある時考え方を変えてみました。この先病気が良くなって、作業を再開したときに役立ちそうなことで、今できることをやってみようと考えました。
そこでデッサン力や観察力をつけようと思い、絵を描いてみることにしました。まず身近なものを描いてみたり、気に入った写真や絵の模写をしたりしてみました。

 

 

鉛筆の線1本分の幅のうち、より細い線でラインを決めるときに、どこを通るかを選ぶことで描いているものの印象がとても変わります。このあたりは、楽器のパフリングや、アウトラインを整える作業と同じ感じで、楽しく思いました。
模写対象の絵や写真と、自分が描いたものとの差異を、間違い探しのように見つけては修正していくことでも、前より観察力がついたように感じました。色を塗る際の混色や、筆使いも、楽器のニス塗りに参考になる点をいくつか見つけられました。
そうこうして日々を送るうちに、新しく試した薬が効き始め、少しずつ動けるようになったので、徐々に作業を再開しました。できるだけ手や肩に負担をかけないようにと、今までの作業の中で、無駄に力が入っていた所を改善したり、無理な動作をなくすことで、以前よりも作業効率が上がりました。
現在は以前と変わらない量の作業ができるようになり、医療の進歩に心から感謝しております。そして、やろうと思ったことをやれるのは今しかないと言うことを、毎朝改めて思いながら最近過ごしています。楽器を製作できる事が、どれだけ有難いことであるのか身に染みた日々でした。